6-2. ゆらゆら揺らしたい!――「安全で」「楽しい」動く装置のつくりかた
2024.09.17
科学館の展示装置をつくっているMedico-tec株式会社のお仕事紹介、第6弾です。
今回は前回に引き続き、ものを吊り下げて「ゆらゆら揺れる」ふりこの動きに使われる部品を取り上げます。
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ふりこのように物を吊るして揺らすための、細長いひも状のもの部品。前回は、ケブラー糸等の頑丈な糸、ワイヤーロープとご紹介しました。
正直なところ、ふりこに使うのはワイヤーロープが本命なところがあって、今回ご紹介する部品はメインで使われることはそうないと思うのですが、ご参考までに取り上げておきます。
3. チェーン
チェーンとひとくくりにしましたが、種類がたくさんあって、形も耐荷重もさまざま、まさに千差万別な部品です。
細くて柔軟に動くものといえば、小豆チェーンやボールチェーン。ネックレスやストラップといった装飾品にもよく使われて、生活に身近なチェーンです。
ただし荷重には弱く、手で強く引っ張るだけで千切れることもあります。
また、長さの調整がチェーンの ひとコマ単位になり、ねじれたり、伸びたりと寸法の精度も出しにくいので、ふりこには積極的に採用されません。
柔軟に動く(巻き癖がつかない)、見た目がきれい、金具で脱着しやすいなどメリットもあるので、メンテナンス頻度が増える可能性を考慮に入れつつ装置に採用される場合はあります。
蛇足ですが、装飾品のチェーンが切れるというのは、チェーンを誤って強く引っ張った場合に、大ケガをする前に切れることで使用者の安全を守っている側面もありますよね。安全性を高める手段にもいろいろあるようです。
コマの一つ一つが大きく頑丈なチェーンは、何百キロ、何トンという重たいものを吊り上げたり引っ張ったりもできる部品です。
ただ頑丈なチェーンほど太く重たく、取りまわしづらくなりますし、長さの調整もしにくくなります。
展示装置の範疇で言えば、そこまで耐荷重が求められる場合も多くなく、あまり出番はありません。
ふりこでいうとY字ふりこ(リサージュ曲線を描く装置)の上の方で大きなチェーンを使っているものを見たことがあります。
その重さで揺れのブレを減らすとか、体重をかけて引っ張られても耐えられるようにする意図があるのかもしれません。
番外. シャフト
最近見かけるようになった例で、ふりこを吊るす部分を金属の棒(シャフト)にしたものがあるのでご紹介しておきます。
このシャフトを使ったペンデュラムウェーブをはじめて見たとき、私は大感動しました。
ペンデュラムウェーブは振り子装置のなかでも見栄えが良く人気があるが、ふりこの長さの微調整がものすごく大変で、作るのに苦労すると聞かされていた装置です。
でもシャフトならワイヤーより取付け時の誤差が出にくいし、長さの微調整も簡単になる...!これこそペンデュラムウェーブ製作の最適解なのでは!?とテンション爆上げしたものです。
ちなみに後からわかった欠点としては、一度ふりこを変な向きに引っ張られてしまうと、シャフトが折れ曲がって交換が必要になるそうです。
体験者が自由に触れられるように設置する場合、気を付けてカバーしたり案内表示をしないと、メンテナンスのコストが高くなるリスクがあります。(シャフトはワイヤーより かなりお高いので)
カバーで全体を覆って自由に触れられなくすれば、(初期コストは上がりますが)精度が上がり、製作もメンテナンスも楽になりとメリットの多い方法だと思われます。
※この ベアリング回転によるふりこでは、ふりこのオモリは一直線上にしか動けません。そのため、全てのふりこ装置に適用できるわけではありません。
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ふりこ装置は、企画側の「自由に触れて体験してほしい」という需要が高い一方で、繊細な点が多いため、製作側としては苦労しがちです。
自由に触れられるふりこの安全面のリスクでは、
・(お子さん同士で取り合いになったりして)想定以上に強い力で引っ張られる
・長いひもに体の一部を巻き付けてしまうと大けがにつながりやすい
・見栄えのためにふりこを大きく重くすると、ひもが千切れた場合にケガをしやすい
・可動部分が多いので、ぶつかったり指を挟む可能性が増える
...などなど、上げ始めたらキリがなくなってくるので、それぞれのリスクと演出効果を天秤にかけながら製作していきます。
矢野恵美