4. 回す力で直線・往復などの動きをつくりたい!___「安全で」「楽しい」動く装置のつくりかた
2023.09.28
科学館の展示装置をつくっているMedico-tec株式会社のお仕事紹介、第4弾。この記事では、弊社の設計担当が「こんなことを考えて、こんなものを使って作っているよ」という内容をご紹介しています。
今回のテーマは、「回す力で直線・往復などの動きをつくりたい!」。
前回までは「クルクル回したい!」というテーマで、体験者やモーターが入力する「軸を回す力」を、方向・向き・速さを変えつつも同じ「回す力」として伝える部品を紹介してきました。
今回は、この「回す力」を、回る動き以外として出力する方法を見ていきます。
意外と身近な例がたくさんあるので、予想もしつつ見ていってください。
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1. チェーン・スプロケット / ベルト・プーリ
まずは、以前にも 離れた位置にある軸同士で回転を伝達できる部品としてご紹介しているこちらです。
このチェーンやベルトには、直線的に動いている箇所がありますよね。そこに飾りをつけて、分かりやすくしてみましょう。
プーリとプーリの間を利用すれば、直線的な動きが作れます。
いわゆるベルトコンベヤで使われている仕組みですね。ベルトコンベヤは、上に載せる物の重さでたわまないようにベルトの下から板で支えたりしています。
2. ねじ
"https://jp.misumi-ec.com/ より引用"
こちらは とても身近な例です。軸にらせん状のねじ山を切り出し、対応する大きさのらせん状の溝を切った穴と嵌め合わせる「ねじ」。
ねじは、ものとものを締め付けることで固定する部品としてのイメージが強いかもしれませんが
回すことで軸を前後に(直線状に)動かす部品としても捉えられます。
ものを動かしたい場合は、普段手に取る家電製品などに使われているねじ(いわゆる小ネジ)よりも太いもの、長いものが使われることが多いです。
以下のgifは、ねじの外径20mm、長さ200mmで描いたイメージ図です。
太いねじを使うとはいえ、たとえば外径20mmのねじを使ったとしても、ねじを一周回して進む量は2.5mm。50mm(5センチ)動かしたい場合は、20周も回す必要があります。
(ちなみに家電のカバー留めなどでよく見る小ネジは、ねじの外径3mmの場合 1周で0.5mmしか進みません)
つまり早く大きく動かしたい場合にはあまり向いていません。
裏を返せば、細かい位置調整がしたい場合にとても頼りになります。
先述のベルト・プーリ等と比べれば、たわまないため 重たいものも正確な位置に動かせますし、進む量が少ない分 軸を回す力は小さくてすむ傾向にあります。
このねじの特徴を生かして、身近なところでは 家具や家電の底についている傾きを調整する部品(アジャスター)に ねじが使われています。
あとは、学校の技術室にはあったであろう万力(まんりき)も、ねじの特徴を上手に生かしている製品です。
ひとの手の力でねじを締め付けるだけで、手で押さえる以上の強い力でガッチリと物を固定できるのはとても便利ですよね。
3. ラックギア
"https://www.kggear.co.jp/stockgear/rack-gears/ より引用"
こちらのラックギアは、身近な製品の見える位置にはあまり使われていないかと思います。
歯車の歯を円状ではなく直線状にならべた部品で、対応する歯車と一緒に使います。
おもに産業用機械に使われる部品で、じつは弊社medico-tecの実績展示装置でも、あまり使っているのを見たことがありません。
理由としては、
・動かしたい長さ分、軸の前後に空間を開けておく必要がある
・上下左右にずれないようガイドする部品が必要
などで、取付け条件が厳しくなったり、スペースが足りなくなったりしてしまうからかな?と思っています。
特に、いま例に挙げている歯車などの動く部品は、装置を体験する人の衣服や体が巻き込まれる危険を避けるため、たいてい什器の内側に隠すようにしています。
(什器は、体験者が触れられる部分(客接部)の土台となる部分で、たいていは木製の家具のようなつくり)
什器の内側のスペースは限られていますから、展示装置の設計の範囲では、よほど正確に往復運動させたい場合でもない限り、ベルトとプーリの方が使いやすそうです。
4. クランク
クランク機構は、回転する部品の回転軸からずれた位置に別の部品を取り付け、円軌道以外の運動を取り出すような仕組みのことです。
逆に、円軌道以外の運動から回転運動を取り出す場合にも使われます。
と文字だけで見てもイマイチなので、具体的なイメージ画像が以下です。※あくまでイメージです。
この例では、ハンドルによって回転する部品の回転軸からずれた位置に、自由に回転できる部品を2つ取り付けています。
それだけでは自由に動きすぎてしまうので、長穴やピンなどを使って部品の動きを制限することで直線的に往復する運動を取り出しました。
さらに部品の形や動きの制限のつけ方を変えれば、さまざまな動きを取り出せます。
クランク機構の使用例でもっとも有名なのは、自動車などのエンジンや蒸気機関でしょうか。
それ以外にも、クランク機構は身近な例がたくさんあるので、気になる方はぜひ検索してみてください。
とりあえずひとつ、身近な例と、実践できる工作アイデアまで載せてくれているページをご紹介しておきます。
作って学ぶ『クランク機構』|おもしろ科学実験室(工学のふしぎな世界)
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ご紹介したページでも例示されている通り、クランク機構は手づくりの工作にも取り入れられる仕組みです。
いわゆる「カラクリ」の作品などは、まさにクランク機構の塊で、先人たちがあらゆるアイデアを使って面白い動きを作り上げています。
ちょっと調べると、ものすごくピンポイントな工作キットまで出てきました...笑
http://www.gincho.co.jp/information/crank1/
なぜこんなにクランクの話を引っ張るのかといいますと、ここまで読んでくださった方には、ぜひ「くるくる回す動き」を お手元でつくって実際に確かめてみてほしいな...と思うからです。
CADを使って設計・製図を行っていて実感するのは、実物を目の前にして、触ってみて初めて分かることの多さです。
いくら計算したり、3Dモデルでシミュレーションしたところで、完成した製品に触れてみると『想像と違ったなあ』と感じる点がたくさんあります。
まだよく分からない領域だからこそ、手を動かして、簡易的にでも試作をすることで、より具体的で深い理解を得られます。
弊社の先達のみなさんも、そうした試作を繰り返して前例のない展示装置を作ってきたそうです。
自分への言い聞かせも含めて 笑、書いておきます。作ってみませんか?
矢野恵美