「インド式カレー ムジャラ」と辛さの科学


2023.01.27

今回は京都のカレー屋さんのご紹介です。

店名は「ムジャラ」。阪急の大宮駅から南へ5分ほど歩いたところにあります。

外観は(中もですが)すごく使い込まれた感じのお店ですが、周囲に食欲そそるスパイスの香りが立ち込めていて、入店の心理的ハードルをぐっと下げています。

さて、肝心のカレーについてです。

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こちらはチキンカレー。さらりとしたカレーとホロホロに煮込まれたあっさりチキンがよく合っていました。スパイスの風味はかなり舌をヒリヒリさせるものでしたが、つねに素材の旨味を感じるおかげで食べるのもつらくありません。さらにトッピングが豊富で(今回で言えばじゃがいも、たまねぎの酢漬け、豆、キウイソース、ツナマヨ?など)さまざまに変化する味を楽しめます。

写真のチキン以外にも、豆、野菜、豚バラなど日によって2から4種ほどのカレーが用意されていて、複数種類を"あいがけ"もできるようです。豊富なトッピングにあいがけに、と、味に飽きさせないための店主の気合を感じます。

 最後まで夢中で食べきれるワンプレートカレー、食べ終わったときには達成感というか、一仕事終えたようなすがすがしさがあります。ぜひ一度ご賞味ください。

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食レポだけで終わるのはなんなので、ここでカレーの「辛さ」にまつわる科学の話もさせていただきます。

カレーは辛さをこそ楽しむ食べ物ですが、この辛味、じつは「味」じゃないってご存じでしたか? 

というのも、口の中で辛味を感じているのは、痛覚の神経なのです。つまり、私たちが「辛い味だ」と思うとき、口の「痛みセンサー」が食物中の物質に反応しているということ。

「五味」と呼ばれる、甘味・うまみ・苦味・酸味・塩味は、人間の舌にある味蕾という器官の細胞が分担して感じ取っていますが、辛味は味蕾と別の部分に通っている神経(痛覚)が反応して感じているので、味ではない、と言えるのですね。

その証拠と言ってはなんですが、食べ物を皮膚にこぼしてしまった時のことを思い出してみてください。

甘いジュースを手にこぼしたとき、あるいは海水に触れたとき。皮膚から「甘さ」「しょっぱさ」が伝わってきたとこはありますか?

次に、唐辛子の粉末を手で触ったとき。あるいは、食べ損ねたワサビやカラシが口のまわりについてしまった時でもかまいません。皮膚がヒリヒリしませんでしたか?

ご存じの通り、皮膚には痛覚はあって味覚はありませんから、肌に触れたときの感覚の違いからも、五味と辛味の性質の違いが連想できますね。

辛味は本来、植物や動物が外敵に食べられないために獲得した毒のようなものだと言われていますし、じっさい、それらを食したヒトは辛味という痛みを感じています。そんな嫌われてしかるべき痛みをものともせず、むしろその刺激を好んで食そうというヒトは多く、生物はときに不条理に思えるふるまいをするものだと考えさせられます。

ヒトの生物としての行動の意外性に思いを馳せるカレーの話でした。

矢野恵美

参考ページ:

・「辛い」の科学 痛みがおいしさに変わるメカニズム/日経サイエンス

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC2264P0S2A320C2000000/

・味蕾/脳科学辞典

https://bsd.neuroinf.jp/wiki/%E5%91%B3%E8%95%BE#%E7%94%98%E5%91%B3%E5%BF%9C%E7%AD%94%E5%91%B3%E7%B4%B0%E8%83%9E